遺言者が認知症であった場合、その遺言者が書いた遺言書が法的に有効であるかどうかが争点となるケースが少なくありません。
ここでは、認知症の家族が書いた遺言書に効力はあるかについて弁護士が解説します。
遺言書に効力が認められる場合
遺言書が法的に有効であるためには、民法で定められた要件を満たす必要があります。
形式的な要件としては、自筆証書遺言であれば全文自筆で日付と氏名を記載し押印すること、公正証書遺言であれば公証人が作成し証人2名以上の立ち会いが必要であることなどが挙げられます。
しかし、これらの形式的な要件を満たしているだけでは十分でなく、遺言者自身に遺言能力があったかどうかという実質的な要件を満たすかが重要となります。
遺言能力とは、遺言者が自身の財産状況や相続人の関係性を正確に認識し、遺言の内容がもたらす法的効果を理解した上で、自らの意思に基づいて遺言を作成できる能力をいいます。
認知症と遺言能力の関係
認知症と診断されたことによって、直ちに遺言能力がないと判断されるわけではありません。
認知症の症状の程度や進行度合いによって、遺言能力の有無は個別に判断されます。
軽度の認知症の場合
認知症の症状が軽度で、遺言の内容や財産分与について理解し、判断できる状態であれば、遺言能力があると認められ、遺言書は有効となる可能性があります。
認知症の症状に波がある場合
認知症には症状の波があり、判断力が回復する時期もあります。
このような時期に作成された遺言書であれば、その時点での意思能力が認められ、有効と判断される可能性があります。
有効性判断における考慮要素
遺言の内容が特定の相続人に不自然に偏っている場合や、遺言者の生前の意思や言動と明らかに異なる内容であるなど、遺言内容が不自然な場合には、遺言能力がなかったのではないか、特定の相続人による詐欺や脅迫などの働きかけがなかったか、といった点が問題となり有効性に大きな影響を与えます。
遺言の作成に第三者が関与している、医師の診断書や介護記録などの客観的な証拠から、遺言作成時遺言能力があったことを裏付けられるなどの事情がある場合には、遺言書は有効とされる可能性が高まります。
まとめ
認知症の家族が作成した遺言書であっても、その症状の程度や作成時の精神状態によっては、法的に有効と判断される可能性がありますが、有効性を巡って相続トラブルに発展するリスクは高いです。
有効な遺言書を作成し、将来のトラブルを未然に防ぐためには、遺言能力の判断に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。